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第一章 秘密 第五話

Auteur: 夏目若葉
last update Dernière mise à jour: 2025-04-01 11:08:27

「あ……お恥ずかしい限りです」

 穴があったら入りたい気分だった。

 いきなり会話の冒頭でその話題になるとは思ってもみなくて。

 本当に恥ずかしくてたまらない。

 どんどんと顔が赤らんでいくのが、自分でも手に取るようにわかるくらい。

「どうしてですか。あの記事の方だから、お会いしてみようかと思ったのですよ?」

 部長の策略に引っかかったことが、意外にもこんなところで役に立っている。

 仕事に繋がったのなら、生き恥をさらした甲斐があったかもしれない。

「お願いですので……あれは忘れてください」

「忘れませんよ。そんなのもったいないです」

 私が恐縮しているのが可笑しいのか、笑いながら朗らかな空気を作り出してくれる宮田さんは、大人で紳士で素敵だ。

「では、本題に入りましょうか」

「はい、実は最上さんにデザインをお願いしたいものがありまして」

 私はバッグから書類を取り出してテーブルに置き、宮田さんの目の前に並べた。

 そして私が思い描いているドレスのイメージとコンセプト、ゆくゆく企画にしたいと思っている全体プランを、できるだけわかってもらえるように懇切丁寧に説明を繰り返す。

 宮田さんはその書類を無言で見つめ、しばらくしてから口を開いた。

「朝日奈さんの企画の趣旨はわかりました。だけど、最上はブライダルドレスのデザインの仕事はしたことがありません。本当に最上でよろしいのですか?」

 その質問に、私はパッと顔を上げる。そして大きく息を吸い込んで意気込んだ。

「デザインをお願いするなら最上さん以外考えられません。どんなドレスをデザインされるのか、考えるだけで舞い上がりそうになります。私は最上梨子というデザイナーに惚れこみました。あの方の才能溢れるセンスなら、どんなものでもデザインできると、勝手ですがそう信じています」

「……」

「できるだけのことはこちらもしますので、是非一緒に仕事をさせていただきたいのですが」

 自分の思いのすべてとはいかなかったが、三分の一くらいは言えただろうか。

 少なくとも、私の情熱だけは伝わったかな。

 ふと目線をあげると、机に頬杖をついた宮田さんとバチっと目が合った。

 さっきは頬杖なんてしていなかったのに……。なんだか今までと雰囲気が違う。

「できるだけのこと、してくれるんですか?」

「えぇ……私にできることでしたら」

 とは言っても、高額なギャラを要求されたりしたらどうしようもないのだけど。

 なんとかそれだけは免れますようにと心で願う。

「ところで朝日奈さんは、口は堅いですか?」

「え? どういう……意味でしょう?」

 質問の意図がわからなくて、私は曖昧な言葉しか出てこない。

 一体この人はなにが言いたいんだろう。

 私になにを要求するつもりなのか。

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